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『青い花』志村貴子

女性なら誰でもわかる、とは言い切れないが、女が男に恋する気持ちと、女が女友達を好きになる気持ちは、ときどき似ることがあると思う。単なる友情とも違う、嫉妬心。この漫画は、そんな女性特有の心の揺れを繊細なタッチで描いた物語。最新刊5巻が出ていたので買ったところ、もう2刷目となっていた。

鎌倉市内にある女子校、藤が谷女学院と松岡女子高等学校。近くにある設定のこのふたつの学校に通う女の子たちの物語。主人公は、お嬢様学校の藤が谷に通えることになった、小さいけれどいつも元気なあーちゃんこと奥平あきら。優秀な生徒が集まる松岡女子に通う、背の高い文学少女のふみちゃんこと万丈目ふみ。小学生の時にふみの転校で離ればなれになってしまったこのふたりが、高校入学時に再会することから始まる。

あーちゃんは、恋にはまだ縁遠い。誘われて参加した合コンでは、心配のあまりついてきてしまったシスコンの兄に激怒するなど、思わず笑ってしまう場面が多いのがあーちゃん。対するふみは、消極的で泣き虫な性格ながら、周囲よりは恋愛を経験済み。その相手は男性ではなく、女性だ。初体験の相手は、年上のいとこ。高校に入って恋したのは、同じ学校の先輩(これがまた憎いほどカッコイイ女子)。読者がニコニコしてしまうのがあーちゃん、ハラハラさせられるのがふみ。このふたりが、再会を機に再び親友同士となり、女の子ならではの友情を築いていく。

私は小学生の修学旅行で鎌倉に行って以来、どうにも鎌倉に憧れてばかり。あんなコンパクトな町にかつて都があったのだと思うたび、よくわからない種類のため息をついてしまう。鶴岡八幡宮とたくさんの寺。山と海に囲まれているため敵に攻められにくい土地であることが、自然と宗教という大きな力に守られる神秘を作り出しているのだろう。

ちなみに鎌倉を舞台にした漫画というと、谷川史子の『各駅停車』を思い出す。江ノ電での通学、七里ヶ浜での出会いなどに憧れて、何度読み返したことか。あまりに好きすぎて、これを読んでばかりではダメになってしまうと、単行本を手放したほど。

『各駅停車』は共学に通う高校生たちの恋愛だけど、同じような気持ちで『青い花』を読むと、違和感を持ってしまうかも。「うんうん、いいよねー、高校生の恋愛って」という程度で『青い花』を開くと、彼女たちのあまりの繊細さにおののいてしまうかもしれない。なにせ女の子が女の子に恋をしてしまうんだから。

細く美しい線、大胆に空間を使った構成など、ふわっとしたネームが印象的。それに加え、作者の志村貴子さんは言葉の魔術師。たったひとつのセリフが、読む人の心をつかんでしまう。言葉に注目した読み方もオススメ。私は志村さんの作品を全部は読んでいないけれど、初期の作品は作家性が意外と強かったよう。説明をはしょりすぎてしまい、キャラの関係性が最後までわからなかったものもあった。そのあたりは指摘されたのだろう、『青い花』では伏線を少しずつ張りながらも、それらがちゃんと解き明かされるので、心配なく読めます。

私の高校時代はもっと単純でバカなことしかやっていなかったので、あーちゃんやふみは大変だなぁ、と傍観してしまうことも。もちろん実際に女子高を出た人も「こんな綺麗な学校生活じゃないよ!」と言うでしょう。『青い花』は乙女心の理想郷。女子も男子も、「こんな子たちがいたらいいなぁ」という思いで読んでみてはどうでしょう。